統制と監査証跡

技術の仕組み | 監査の基礎

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システム監査は「業務が正しいか」を感想で述べるものではありません。確かめたいこと(監査要点)を決め、それを裏づける記録(証跡)を実際に見て、事実で判定するという一本の筋があります。統制の種類・職務の分離・監査技法は、どれもこの筋の上に並ぶ部品です。ここを分けて覚えると、設問で問われる順番がそのまま見えてきます。

先に押さえる

統制=間違いや不正が起きないよう/起きても気付けるように業務へ組み込んだ仕掛け。監査=その仕掛けが設計どおりに整備され、実際に運用されているかを第三者の立場で確かめる行為。監査人は業務を直すのではなく、事実を確かめて報告し、改善を促す立場です。

監査の基本の流れ

STEP 1リスク評価どこが危ないかを見立て、限られた工数をリスクの高い領域に配分する。
STEP 2監査手続の策定監査要点ごとに何を・どの技法で確かめるかを計画(監査計画書・監査手続書)。
STEP 3証拠の入手証憑・ログ・記録を実際に入手する。ここが監査の実体
STEP 4評価入手した証拠で監査要点を判定し、監査調書に残す。
STEP 5報告指摘事項と改善勧告を監査報告書にまとめ、依頼者へ提出。
STEP 6フォローアップ改善が実際に行われたかを後日確かめる。報告で終わりにしない。

設問でよく問われるのは STEP 3STEP 6 です。STEP 3 は「何を見れば確かめられるか」、STEP 6 は「報告しただけでは監査は完結しない」という点。どちらも行動が具体的に書けるかで差がつきます。

統制の種類 ― 予防と発見

予防的統制(事前に防ぐ)

  • 誤りや不正が起きる前に止める
  • 例:アクセス権限の設定、入力チェック(桁数・型・範囲・重複)、上長の事前承認、二重入力の照合
  • 強み:被害そのものが発生しない
  • 限界:想定した誤りしか止められない/すり抜けたものは分からない

発見的統制(後から気付く)

  • 起きてしまった誤り・不正に後から気付く
  • 例:ログの突合、例外レポート・エラーリストの確認、残高照合、定期的なアクセス権の棚卸し
  • 強み:想定外のすり抜けも拾える
  • 限界:気付くまでに時間差がある/記録が無ければ機能しない
注記

この2つはどちらが優れているかではなく、組み合わせて使うものです。予防的統制ですり抜けが起きうる以上、発見的統制が要る。逆に発見的統制だけでは被害の発生自体は止まりません。「予防的統制があるから発見的統制は不要」という選択肢は、まず誤りと考えてよい形です。

IT全般統制とIT業務処理統制

IT全般統制

  • 個々の業務ではなく、システム全体の土台に効く統制
  • 例:開発と運用の分離、プログラム変更管理(変更申請・承認・移行記録)、アクセス管理、バックアップと復旧、外部委託先の管理
  • ここが崩れると、個別の統制が効いている保証ごと崩れる

IT業務処理統制

  • 個々の業務処理が正確・網羅的に行われることを担保する統制
  • 例:入力チェック、合計値(コントロールトータル)の照合、連番チェック、エラーデータの再処理管理、出力帳票の受渡確認
  • 「1件1件が正しく処理されたか」を守る層
つまずきやすい

順序が逆になりがちです。IT業務処理統制が信頼できるのは、IT全般統制が有効であることが前提。プログラムを誰でも無断で書き換えられる環境なら、どれだけ入力チェックが精緻でも「そのチェックが動いていた保証」がありません。だから監査は全般統制を先に確かめ、その上で業務処理統制を確かめる順で組み立てます。

職務の分離 ― なぜ効くのか

分離していない

同一担当者申請承認入力結果確認

全工程を一人で完結できる。架空の取引を自分で申請し、自分で承認し、自分で入力し、自分で結果を確認して隠せる。誰にも見られない経路が業務の中に存在してしまう。

分離している

担当者A申請・入力
担当者B承認・照合

申請者と承認者、入力者と承認者を別人にする。不正を成立させるには複数人の共謀が必要になり、単独犯では完結しない。さらに他人の目を必ず通るので、単純な誤りもその場で見つかる。

見抜きどころ

職務の分離が効く理由は「役割を細かくするから」ではなく、一人で完結させないからです。だから答案も「担当を分ける」で止めず、誰と誰を分けるのか(申請者と承認者/入力者と承認者/開発担当と運用担当)まで書きます。人員が足りず分離できない場合の代替は、上長による事後の記録レビュー=発見的統制で補う、が定番の筋です。

監査証跡 ― 「誰が・いつ・何を」

監査証跡とは、ある処理について「誰が・いつ・何を・どの端末から行い、結果どうなったか」を後から順に追跡できる記録のことです。取引の発生から会計上の結果まで、あるいはその逆方向に、記録をたどって復元できる状態を指します。

網羅性

  • 対象の操作が漏れなく記録される
  • 一部の操作が記録対象外だと、そこが追跡の切れ目になる

正確性

  • 記録された時刻・利用者IDが実体と一致する
  • 時刻同期がない/IDが共用だと「誰が」を特定できない

改ざん耐性

  • 記録を後から書き換え・削除できない
  • 操作者本人がログを消せる権限を持つと、証跡としての意味を失う
つまずきやすい

「ログを取得している」ことと「監査証跡になっている」ことは別です。共用IDでログインしている/ログの保存期間が監査対象期間より短い/管理者がログを削除できる——このどれか一つでも当てはまれば、そのログは「誰が・いつ・何を」を証明できません。設問で証跡の不備を突く場面では、この3点が頻出の切り口です。

監査技法 ― 何を確かめたいかで決まる

技法は「知っている数」ではなく、確かめたいこと(監査要点)との対応で選びます。

確かめたいこと(監査要点)選ぶ技法実際に見る/作るもの
記録どうしが一致しているか突合・照合法取引伝票と入力データ、受注データと出荷データ、システムの残高と実地棚卸結果
統制が定めどおり整備されているかチェックリスト法規程・手順書・チェックリストへの回答と、その裏づけ記録
プログラムが仕様どおり処理するかテストデータ法正常データと意図的な異常データを投入し、エラーリストと出力結果を確認
手順が実際に守られているかインタビュー/現地調査担当者への質問と、答えを裏づける記録(作業日報・承認記録)の突合
大量データに例外がないか監査用ソフトウェアによる検証全件から異常値・重複・連番の欠落を抽出した結果一覧
注記

インタビューだけでは証拠として弱いのが原則です。「守っています」という回答は事実の確認ではないため、必ず記録で裏づける(=突合する)ところまでがワンセット。テストデータ法も、異常データを入れてはじかれることを確かめるのが眼目で、正常データだけ流しても統制が効いている証明にはなりません。

設問で差がつくところ

見抜きどころ

監査の設問は、ほぼ必ず「何を確かめるか(監査要点)」と「そのために何を見るか(証跡)」の対で問われます。だから答案も対で書く。そして証跡は具体的な記録名・帳票名で書きます——変更申請書と承認記録/アクセス権限一覧/操作ログ/エラーリスト/作業日報/受入テスト結果報告書のように。「適切に行われていること」「問題がないこと」で止めた答案は、何を見たのかが分からないため点になりません。「〜が承認されていることを、承認記録と突合して確かめる」まで書き切るのが型です。

弱い書き方:「変更が適切に行われていることを確認する。」
通る書き方:「本番環境へ移行したプログラムが、変更申請書の承認を得たものだけであることを、移行記録と変更申請書の承認欄を突合して確かめる。」

背景

監査人が「確かめた」と言えるのは、第三者が後から同じ記録を見て同じ結論に至れるときだけです。だから記録名まで書く必要がある——これは作文の作法ではなく、監査という行為の性質そのものから来ています。答案の具体度が、そのまま監査としての成立度になります。

つながる仕組み

関連→ ハッシュ・MAC・デジタル署名(記録の改ざん検知と否認防止)

この仕組みを使う設問