原価と利益の構造

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「売上が1割落ちたら、利益はどれだけ減るのか」——この問いに即答できるかどうかは、費用を売上に連動して増える分売れても売れなくても出ていく分に分けているかで決まります。分けさえすれば、あと何円売れば赤字を抜けるかも、目標の利益を出すにはいくら売ればよいかも、割り算1つで出ます。逆に費用を一塊で見ている限り、どの数字も勘でしか答えられません。費用の分け方が、そのまま判断できる範囲を決めているのがこの構造です。

先に押さえる

売上に応じて増減する費用が変動費(材料費、仕入原価、外注の従量分、販売手数料など)、売上とは無関係に一定額かかる費用が固定費(賃借料、正社員の人件費、減価償却費、保守の定額分など)です。売上高から変動費を引いた残りを限界利益と呼び、固定費を回収するために使えるお金を意味します。売上高に対する限界利益の割合が限界利益率で、1円売れるたびに何円が固定費の回収に回るかを表します。利益が出るのは、限界利益の累計が固定費を上回った瞬間です。

費用を2つに分けると何が見えるか

1売上高から順に引いていく
売上高販売単価 × 販売数量
① 変動費を引く(数量に比例して増える分)
限界利益固定費の回収に回せる金額
② 固定費を引く(数量に関係なく出ていく分)
営業利益ここが0になる売上が損益分岐点

順番が大事です。変動費を先に引くから、残りが「固定費の回収原資」という一つの意味を持ちます。逆に固定費を先に配ってしまうと、販売数量が変わるたびに1個あたりの費用が動いてしまい、「あと1個売ったら利益はいくら増えるか」が答えられなくなります。増分の判断——追加受注を受けるか、値引きに応じるか、この製品を続けるか——は、すべて限界利益で考えます。

分ける基準は「勘定科目の名前」ではなく、操業度(生産量・販売量・取引件数)が動いたときにその費用も動くかです。同じ名前の費目でも、契約の仕方しだいでどちらにもなります。

費目変動費になる形固定費になる形
人件費作業量に応じて増やす臨時要員、出来高払い月給制の常勤要員
設備・システム使用量に応じて課金される外部サービス購入した資産の減価償却費
物流費1件ごとの配送料年額契約の倉庫賃借料
販売費売上に連動する販売手数料期間で決まる広告契約料

つまり費用構造は与件ではなく、契約の設計で選べるということです。この点が最後の節につながります。

一段深いところ:損益分岐点を計算する

営業利益が0になる売上高が損益分岐点売上高です。限界利益がちょうど固定費と同額になる点なので、式は損益分岐点売上高=固定費 ÷ 限界利益率。実際の数字で1回通します。

項目金額(万円/月)計算
売上高2,000単価5,000円 × 4,000個
変動費1,2001個あたり3,000円 × 4,000個(変動費率60%)
限界利益8002,000 − 1,200。限界利益率=800÷2,000=40%
固定費600賃借料・人件費・減価償却費など
営業利益200800 − 600

この会社の損益分岐点売上高は 600 ÷ 0.4 = 1,500万円。売上が1,500万円まで落ちると利益は0になります。個数でも出せます。1個売るごとに残る限界利益は 5,000円 − 3,000円 = 2,000円なので、600万円 ÷ 2,000円 = 3,000個。この3,000個に単価5,000円を掛けると1,500万円で、当然ながら金額の答えと一致します。どちらで解いても同じ場所を指すことを一度確かめておくと、本番で式を取り違えません。

目標利益を置いたときも、考え方は同じです。回収すべき金額が「固定費」から「固定費+目標利益」に増えるだけなので、必要売上高=(固定費+目標利益) ÷ 限界利益率。目標利益を月300万円にするなら (600+300) ÷ 0.4 = 2,250万円で、いまの2,000万円から250万円の上積みが要る、と具体的に言えます。

計算でつまずく

落とし穴は3つあります。1つ目、限界利益と粗利益(売上総利益)を混同すること。粗利益は売上高から売上原価を引いた値で、売上原価には工場の減価償却費や製造部門の人件費といった固定費が混ざっています。粗利益率を限界利益率のつもりで割ると、損益分岐点は実態より低く出ます。与えられた表が「売上原価」で区切られていたら、そのままでは損益分岐点は解けません——費用を固定と変動に組み替える手順が必ず要ります。2つ目、単位の取り違え。固定費(円)を「1個あたりの限界利益(円/個)」で割れば答えは個数、「限界利益率(無単位)」で割れば金額です。割る相手を間違えると桁が丸ごとずれます。設問が個数を聞いているのか売上高を聞いているのかを、式を書く前に確認します。3つ目、分ける段でのつまずき。電気料金や通信費のように基本料金+従量部分からなる費用(準変動費)は、そのままではどちらにも入れられません。操業度が最大の月と最小の月の実績から1単位あたりの増加額を求め(高低点法)、変動費部分と固定費部分に分解してから表に入れます。分解を飛ばして全額を固定費に寄せると、限界利益率が小さく出て分岐点が跳ね上がります。

安全余裕率と、費用構造による利益の振れ方

いまの売上が損益分岐点からどれだけ離れているかを比率で表すのが安全余裕率です。安全余裕率=(売上高 − 損益分岐点売上高) ÷ 売上高 × 100(%)。先ほどの例なら (2,000 − 1,500) ÷ 2,000 = 25%売上が25%落ちるまでは赤字にならないという読み方をします。逆から見た損益分岐点比率(=1,500÷2,000=75%)も同じことを言っており、この比率が低いほど不況に強いと評価します。

同じ利益額でも、費用の内訳が違えば売上減少への耐性はまったく変わります。売上高2,000万円・営業利益200万円で並ぶ2つの事業を比べます。

項目甲(固定費が重い)乙(変動費が重い)
売上高2,0002,000
限界利益率80%20%
限界利益1,600400
固定費1,400200
営業利益200200
損益分岐点売上高1,750(1,400÷0.8)1,000(200÷0.2)
安全余裕率12.5%50%
売上が10%減ったときの利益40(▲80%)160(▲20%)

売上の減り方は同じ10%なのに、甲の利益は8割吹き飛び、乙は2割で済みます。固定費が重い事業は、売上が伸びたときは限界利益がそのまま利益に積み上がって一気に儲かる代わりに、売上が落ちたときの落ち込みも同じ倍率で効く——この増幅の度合いが費用構造の正体です。「利益が同額だから同じ体力」ではないことを、安全余裕率が数字で示してくれます。

費用構造の選択がIT投資の判断に効く

この構造は経理の話にとどまりません。情報システムをどう調達するかは、そのまま費用構造の選択だからです。自社で構築して資産として持てば、費用の大半は減価償却費と保守要員の人件費——つまり固定費になります。外部のサービスを使用量に応じた課金で利用すれば、費用は取引量に連動する変動費になります。

自社で構築して持つ(固定費が増える)

  • 限界利益率が上がる:1件処理するごとの追加費用が小さいので、取引が増えるほど利益が伸びる。
  • 損益分岐点が上がる:回収すべき固定費が増えるため、赤字を抜けるのに必要な売上高が高くなる。
  • 安全余裕率が下がる:需要が読みどおり伸びなかったときの損失が大きい。
  • 向くのは取引量が安定して多く、長く使うと見込める業務。

従量課金で利用する(変動費が増える)

  • 限界利益率が下がる:1件ごとに費用が出ていくので、量が出ても利益の伸びは緩やか。
  • 損益分岐点が下がる:固定費が小さいぶん、少ない売上でも黒字にできる。
  • 安全余裕率が上がる:需要が消えれば費用も消えるため、外れたときの傷が浅い。
  • 向くのは需要の見通しが立たない新規事業や、繁閑の差が大きい業務。

判断軸は1つ、「見込んだ取引量が本当に出るか、どれだけ確信できるか」です。確信が持てるなら固定費に寄せて限界利益率を取りにいき、読めないなら変動費に寄せて分岐点を下げ、外れたときの損失を小さくする。安いほうを選ぶのではなく、外れたときにどちらの形の損を引き受けるかを選ぶ——これが費用構造の設計です。なお両者は排他ではなく、基盤の一部だけを従量課金にして固定費と変動費の比率を意図的に調整するという設計もできます。

見抜きどころ

核は「与えられた費用を、まず固定費と変動費に組み替えられるか」です。設問は損益計算書の形(売上高・売上原価・販売費及び一般管理費)で数字を出しておいて、答えは損益分岐点、という出し方をします。売上原価=変動費ではないと気付けるかがそのまま得点差になります。組み替えさえ済めば、あとは3つの式を当てはめるだけ——損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率必要売上高=(固定費+目標利益)÷限界利益率安全余裕率=(売上高−損益分岐点売上高)÷売上高。記述で「この施策で収益性がどう改善するか述べよ」と問われたら、固定費を減らしたのか、変動費率を下げたのか(=限界利益率を上げたのか)のどちらなのかを名指しし、損益分岐点がいくらからいくらへ動くかを数字で書きます。「コストを削減した」だけでは、構造を理解した答案になりません。

注記

ここでの固定費は一定の操業度の範囲内で固定という意味です。生産量が設備の能力を超えれば工場や人員を増やすことになり、固定費は段階的に跳ね上がります(階段状の固定費)。分析で置いた前提の範囲を大きく外れる売上を、同じ式のまま延長して語らないようにします。また限界利益がプラスである限り、その製品は固定費の回収に貢献しているため、営業利益が赤字だからという理由だけで撤退を決めると、残った固定費が他製品に乗って全体の利益がかえって減ることがあります。

この仕組みを使う設問