支援士の出題範囲は2023年の改訂で大きく動きました。古い問題集や改訂前の教材で勉強していると、もう出ない分野に時間を使い、新しく入った分野を丸ごと落とすことになります。
このページは、その改訂で消えたものと増えたものを分野別に並べたものです。まず消えたほうから見てください。やらなくていいことが決まると、時間が浮きます。
① もう出ない:ここは捨てていい
改訂で範囲から外れたものです。覚え直す必要はありません。
データベースの古い方式
- CODASYL型データベース
- オブジェクト関係データベース
- ハイパーテキストデータベース
- マルチメディアデータベース
- オブジェクト指向データベースの考え方
- 1相コミットメント
削除の大半がここに集中しています。古い問題集ほどこの4方式の比較表に紙面を割いていますが、いまは読む必要がありません。
境界防御の考え方
- 入口対策
- 出口対策
いまの前提は「守る対象はもう社内にない」。クラウドに置いたデータ、自宅から入る社員、委託先のシステム——境目が引けません。だから代わりに入ったのがクラウドサービスの責任共有モデル(どこまでが自社の責任か)です。
答案で「入口対策・出口対策」と書く型は捨ててください。
その他
- 電子メール爆弾
- UUIDの利用
- ディレクトリ型(検索エンジン)
- OECDセキュリティガイドライン
- ST(セキュリティターゲット)
STは削除され、代わりにPP(プロテクションプロファイル)が入りました。製品1つの仕様書ではなく、製品分類ごとの要求仕様を問う方向です。
② 言い方が変わった:古い呼び方で覚えていると迷う
内容は同じで、呼び方だけが変わったものです。選択肢に新しい呼び方で出ます。
| 古い呼び方 | いまの呼び方 |
|---|---|
| ホワイトハッカー | エシカルハッカー |
| ヒューマンインタフェース | ユーザーインタフェース |
| 利用者マニュアル | 利用者用文書類(ウィザード/チュートリアル/オンラインヘルプ) |
| ST(セキュリティターゲット) | PP(プロテクションプロファイル) |
| CMMIの成熟度レベル | JIS X 33001/JIS X 33020(プロセスの能力水準) |
③ 新しく増えた:どこが厚いか
増えた量は分野でかなり違います。時間配分の目安にしてください。
| 分野 | 追加 | 削除 | 中身 |
|---|---|---|---|
| セキュリティ | 192 | 11 | AI・ランサムウェア・パスワードレス認証 |
| ソフトウェア開発管理 | 74 | 6 | DevOps・ローコード開発(どちらも新設) |
| システム開発技術 | 60 | 2 | マイクロサービス・DDD・テスト手法 |
| データベース | 57 | 9 | NoSQL・分散トランザクション |
| ネットワーク | 23 | 1 | QUIC・HTTP/3・5G |
| サービスマネジメント | 22 | 0 | SLI/SLO・RLO |
| システム監査 | 6 | 0 | データガバナンス |
④ 増えた分野の中身
AI ― 攻める側と守る側の両方に入った
AIが攻撃に使われる/AIが狙われる
- プロンプトインジェクション
- データポイズニング
- モデルインバージョン攻撃/メンバーシップ推測攻撃
- 敵対的サンプル/ディープフェイク
- AIを悪用した攻撃(フィッシングの巧妙化、マルウェア亜種の生成)
AIで守る
- AIを使ったセキュリティ技術(AI for Security)
- AIそのものを守る技術(Security for AI)
- 連合学習
- AIOps(運用の自動化)
AIだけの独立した章はありません。「脅威」「攻撃手法」「対策」といった既存の節に散らして入っています。だから出題も、AI単独の問題よりふつうの事例(社内システム・クラウド移行・インシデント対応)の中にAIが混ざる形になります。
ランサムウェア ― 「入られたあと」が前提
攻撃側
- 二重脅迫(ダブルエクストーション)/リークサイト
- RaaS(ランサムウェアの分業化)
- ラテラルムーブメント(侵入後の横移動)
- RAT/リバースシェル
対策側
- 3-2-1ルール(バックアップの取り方)
- イミュータブルバックアップ(消せない保管)
- 脅威ハンティング(能動的に探しに行く)
- XDR/SOAR(検知と対応の自動化)
削除された「電子メール爆弾」と入れ替わりです。攻撃の目的が嫌がらせから金銭へ移ったことが、そのまま範囲に出ています。
認証 ― パスワードを無くす方向、ただし破り方も同時に入った
新しい認証
- Passkeys/FIDO2/FIDO U2F/UAF
- IDaaS(認証をサービスとして借りる)
- eKYC(オンライン本人確認)
- EMV 3-Dセキュア(3Dセキュア2.0)
それを破る手口
- クレデンシャルスタッフィング(使い回しパスワードの総当たり)
- 多要素認証疲労攻撃(承認要求を連打して押させる)
- スミッシング(SMSのフィッシング)
脆弱性 ― 「見つける」から「管理し続ける」へ
- SBOM(使っている部品の一覧)
- SCA(部品の脆弱性を調べる)
- KEV(実際に悪用されている脆弱性)
- IoC(侵害の痕跡)
- 脅威インテリジェンス
- ISMAP
単発の脆弱性検査ではなく、部品表を持ち、優先度をつけ、情報を共有し続けるという運用の話になりました。SBOMは「対策」と「構成管理」の2か所に入っています。セキュリティ部門だけの話ではなく、開発の話でもある、という位置づけです。
暗号 ― 「なぜ安全と言えるか」まで問う
- PQC(耐量子計算機暗号)
- 認証付き暗号
- 秘密計算(秘密分散・準同型暗号)
- 軽量暗号
- 暗号強度(ビットセキュリティ)
- 情報量的安全性/計算量的安全性
方式名を覚えるだけでは足りません。情報量的安全性と計算量的安全性を並べて置いたところに意図が出ています。「どこまで安全なのか」を強度の言葉で説明できるか、が問われます。
データベース ― 分散が前提になった
- NoSQLと関係データベースの違い(新設)
- グラフ型のデータモデル
- 隔離性水準と3つの読み取り異常
- Sagaパターン/TCCパターン/補償トランザクション
- BASE特性/結果整合性
- シャーディング
①で捨てた古い4方式と入れ替わりです。Sagaパターン・BASE特性・結果整合性は、いずれもマイクロサービスで分散トランザクションをどう成立させるかの話で、下の開発分野とつながっています。
開発 ― 節そのものが5つ新設された
用語が足されたのではなく、学習項目が新しく作られたのが次の5つです。古い教材には章ごと存在しません。
| 新設された項目 | 中身 |
|---|---|
| DevOps | CI/CD、SRE、テスト駆動開発、Four Keys、オブザーバビリティ、DevSecOps |
| ローコード/ノーコード開発 | 特徴・利点・注意点 |
| ドメイン駆動設計(DDD) | ドメインモデル、ユビキタス言語、値オブジェクト |
| NoSQLと関係データベースの違い | 使い分けと注意点 |
| 情報セキュリティに関する基準 | PCI DSS、サイバーセキュリティフレームワーク、NIST SP 800シリーズ |
あわせてアーキテクチャの語も入りました。
- マイクロサービスアーキテクチャ
- サービスメッシュ
- サーキットブレーカー
- サーバレスアーキテクチャ
- カナリアリリース/ブルーグリーンデプロイメント
ネットワーク ― 世代交代
- QUIC
- HTTP/3
- Enhanced Open
- DMARC
- CSP(Content Security Policy)
- ローカル5G/ネットワークスライシング
- ip/ss/dig
運用コマンドがip・ss・digに置き換わりました。古いコマンド名から現行のものへ移ったということは、実際に手を動かして確認した経験を前提にする構えです。この分野はネットワークスペシャリスト(NW)の対策にもそのまま使えます。
内部不正 ― 規程で縛るだけでなく、振る舞いで見つける
- UBA/UEBA(利用者の振る舞い分析)
- 職務分掌
- セキュリティクリアランス
- 割れ窓理論/防犯環境設計
- 地政学的リスク
⑤ 何から手を付けるか
データベースの古い4方式と「入口/出口対策」。ここに使っていた時間がそのまま浮きます。
古い教材に章ごと無い=対策していない人が多い。DevOps・ローコード・DDD・NoSQL・各種基準。
AI・ランサムウェア・パスワードレス認証・SBOM。知らないと手が出ない型なので、まず語として。
境界の消滅・侵入後の対応・パスワードレスの3本は、事例の背景そのものに効きます。
⑥ 増えた分野を、この問題で練習する
ここまでの分野が実際に午後問題で出ている回を、収録している過去問70冊から探しました。読むだけで終わらせず、対応する問題を1問ずつ解くのがいちばん早いです。
| 増えた分野 | 解く問題 | ここで何が問われるか |
|---|---|---|
| 境界の消滅 責任共有モデル・ゼロトラスト |
令和2年度 秋期 午後Ⅱ 問2 クラウドサービスを活用したテレワーク環境 |
社内・社外の境目が引けなくなった環境をどう設計するか。ゼロトラストが本文に出てくる数少ない回です。 |
| クラウドの責任分界 | 令和5年度 春期 午後Ⅱ 問2 Webサイトのクラウド移行と外部サービス連携 |
どこまでが自社の責任か。責任共有モデルを正面から扱う回です。 |
| ランサムウェア | 令和4年度 春期 午後Ⅰ 問2 NAS製品のランサムウェア被害とインシデント対応 |
暗号化されたあとどう動くか。バックアップの取り方が効いてくる形です。 |
| 侵入後の横移動 ラテラルムーブメント |
令和3年度 秋期 午後Ⅱ 問2 マルウェア感染への対処(テレワーク移行と社外連携) |
1台の感染がどう広がるか。横展開の扱いが最も厚い回です。 |
| 侵入後の対応 新形式で練習したい人はこちら |
令和6年度 秋期 午後 問1 マルウェア感染のインシデントレスポンス |
検知から封じ込め・調査までの流れ。問1〜4の新形式なので本番の感覚に近いです。 |
| 認証の強化 パスワード以外の要素 |
令和3年度 春期 午後Ⅰ 問1 認証システムの開発(OAuthによるID連携) |
認可とトークンの受け渡し。多要素認証もあわせて問われます。 |
| SBOM・サプライチェーン | 令和7年度 春期 午後 問1 サプライチェーンのリスク対策 |
SBOMを扱う唯一の回です。委託先をどう管理するかまで含みます。 |
| 脆弱性の継続管理 コンテナ・イミュータブル保管 |
令和4年度 秋期 午後Ⅰ 問3 サプライチェーン攻撃とコンテナの侵害対応 |
ゼロトラストとイミュータブルバックアップの両方が出てくる回です。 |
| DMARC 今回の追加語 |
令和6年度 秋期 午後 問2 ドメイン名変更に伴うメール詐称対策 |
SPF・DKIM・DMARCの3点セット。DMARCを本格的に問う回です。 |
| CSP 今回の追加語 |
令和7年度 秋期 午後 問1 コンサル業務用SaaSのインシデント対応 |
CSPをすり抜ける格納型XSS。設定を1行変えると結果が変わる形で問われます。 |
| 脅威インテリジェンス・IoC 今回の追加語 |
令和元年度 秋期 午後Ⅰ 問2 脅威インテリジェンスとC&C通信の調査 |
外部から得た痕跡情報を、自社のログとどう突き合わせるか。 |
こういう語は問題演習では拾えないので、語として覚えるしかありません。④の一覧と単語帳で押さえてください。逆に言えば、ここはこれから出る可能性が残っているところです。
※ 上の対応づけは、各問題の本文で該当分野の語がどれだけ扱われているかを調べて選んだものです。今回の出題範囲の変更は午前Ⅱ(科目A-2)のものなので、「範囲が変わったから午後でこう出た」という関係ではありません。増えた分野を実際の事例で練習するための入口として使ってください。
⑦ 他の試験区分について
今回の変更は支援士の午前Ⅱ(科目A-2)の範囲のものです。ネットワークスペシャリスト・システムアーキテクト・プロジェクトマネージャのシラバスは、用語のリストではなく「何ができる人か」を書いた技能の一覧なので、こうした増減の形では比べられません。
ただしネットワークの追加分(QUIC・HTTP/3・ローカル5G・ip/ss/dig ほか)は、NW受験にもそのまま効きます。IPAが「いま問う価値がある」と判断した語であることに変わりないからです。
NW・SA・PMの傾向は、シラバスではなく過去問から見るほうが早いです。論述式は午後Ⅱ論述 傾向分析にまとめてあります。
出典:IPA公表「情報処理安全確保支援士試験 シラバス 追補版(科目A-2)Ver.4.0」ほか。追加・削除の判定は原本の色分けによるもので、分類・見出し・解釈・並び順は本サイトの独自分析です。原本はIPAのシラバス公開ページから無料で入手できます。