SLAとサービスレベル管理

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「安定して使えるようにします」では、守れたかどうかを誰も判定できません。そこでサービスの品質を数値で約束し、測って、報告して、直す——この一連の仕組みがサービスレベル管理です。約束を文書にしたものがSLA。ただし数字を書けば済む話ではなく、その数字をどうやって測るのかまで書いていないと、達成・未達の判定そのものが揉めます。SLAで本当に難しいのは目標値ではなく測り方です。

先に押さえる

SLA(Service Level Agreement)は、サービスを提供する側と利用する側の合意文書です。似た言葉にSLO(Service Level Objective)があり、こちらは達成を目指す目標値そのもの。「可用性99.5%以上」という数値がSLOで、それを合意して文書化した全体がSLAだと考えると整理できます。SLAは片方が押し付ける仕様書ではなく双方の合意なので、利用側にも「所定の様式で申告する」といった義務が書かれるのが普通です。

約束の階層=誰との約束か

1つのサービスは、社内の複数部門と外部の委託先が連なって成り立っています。顧客への約束を守るには、その裏側の約束も揃っていなければならない——これが階層の考え方です。

1顧客への1本の約束は、内部と外部の約束に支えられている
顧客・利用部門サービスを使う側
SLA:顧客との約束(例:可用性99.5%、重大障害は4時間以内に復旧)
サービス提供者約束を守る責任を負う
OLA:社内他部門との取り決め(例:ネットワーク部門は30分以内に一次切分け)
社内の関係部門運用・ネットワーク・基盤など
UC:外部委託先との契約(例:機器交換は翌営業日まで)
外部の供給者保守業者・回線事業者など

OLA社内の部門間で交わす取り決め、UC外部の供給者と交わす契約です。この2つの違いは「相手が社内か社外か」で、頻出の区別です。そして重要なのは整合性——顧客に「4時間以内の復旧」を約束しているのに、外部委託先との契約が「翌営業日対応」だったら、その約束は構造的に守れません。SLAを結ぶ前に、それを支えるOLAとUCが足りているかを確認する。ここが崩れている状況は、設問の格好の題材になります。

何を測るか、どう測ると書くか

サービスレベル項目は無限に作れますが、顧客の業務にとって意味があり、かつ測定できるものだけを選びます。代表的なのは次の3種です。

項目 約束の例 これも書かないと揉める
可用性 月間の稼働率99.5%以上 分母となる時間(24時間か業務時間帯か)、計画停止を含めるか、停止と判定する条件。
応答時間 検索処理の応答が3秒以内 どこからどこまでの時間か(利用者の画面までか、サーバの処理だけか)、どの操作を対象にするか
解決時間 重大な障害は4時間以内に復旧 起点(発生時刻か受付時刻か)、重大の定義、夜間・休日を時間に数えるか。

右の列が示すとおり、同じ「3秒以内」でも測る範囲を変えれば結果は変わります。だからSLAには目標値と並べて測定方法・測定間隔・集計期間・除外条件を書きます。書いていない項目は、未達が出た瞬間に「その測り方は合意していない」と言われて水掛け論になります。測定方法の記載は形式ではなく、判定を可能にするための本体です。

平均値が隠すもの、パーセンタイル値の数え方

応答時間を「平均1秒」と報告すれば優秀に見えます。しかし平均はごく一部の極端に遅い応答を、大量の速い応答で薄めてしまう性質があります。具体例で見ます。1か月の測定が100回あり、内訳が次のとおりだったとします。

平均は (0.5×90 + 5.5×10) ÷ 100 = (45 + 55) ÷ 100 = 1.0秒。報告書には「平均応答1.0秒、目標3秒を達成」と書けてしまいます。ところが実際には10回に1回は5.5秒かかっていた。その10回に当たった利用者にとって、このサービスは遅いのです。

そこで使うのがパーセンタイル値です。数え方はいたって単純で、測定値を小さい順に並べ、下から数えて指定した割合の位置にある値を読みます。

数え方の手順

  • ① 測定値を小さい順に並べる(上の例なら 0.5秒が90個、続いて5.5秒が10個)。
  • ② 位置を計算する:件数 × 割合。95パーセンタイルなら 100 × 0.95 = 95
  • ③ その順位の値を読む:小さい方から95番目は、90番目までが0.5秒なので5.5秒
  • つまりこのサービスの95パーセンタイル値は5.5秒。平均1.0秒とはまったく違う姿が見える。
  • 測定が20件なら 20 × 0.95 = 1919番目の値、40件なら38番目の値。件数が変われば読む順位も変わるのが要点。

読み違えやすいところ

  • 「95パーセンタイル値が3秒」=「95%の応答が3秒以内」という意味。残り5%は3秒を超えてよいと約束していることになる。
  • 中央値は50パーセンタイル値。半分の利用者の体感でしかなく、遅い側の実態は写らない。
  • 最大値だけを見るのも危うい。たった1回の異常値に引きずられ、恒常的に遅いのか偶発なのか区別できない。
  • 件数が少ないと不安定。10件の95パーセンタイル値はほぼ最大値と同じで、目標として意味を持ちにくい。

だからサービスレベル項目には「応答時間の95パーセンタイル値が3秒以内」のように書きます。平均で約束すると、遅い日をいくら作っても達成できてしまうからです。設問で「平均応答時間は目標を満たしているのに、利用者から遅いという苦情が続いている」と書かれていたら、答えは平均では一部の極端に遅い応答が埋もれるため、パーセンタイル値など分布が分かる指標で測るという方向になります。

SLAは達成、でも顧客は不満

数字はすべて目標内、なのに顧客は満足していない。このギャップは現実に頻発し、設問でもよく描かれます。原因は測っている指標と、顧客が実際に感じる不便との距離にあります。

ギャップが生まれる理由

  • 平均で隠れている:一部の極端に遅い応答が平均に埋もれ、そこに当たった利用者の不満が数字に現れない。
  • 測る範囲が顧客の体感と違う:サーバ内の処理時間だけを測っていて、顧客が待たされている通信や画面表示の時間が入っていない。
  • 時間帯を均している:月間で均せば達成でも、業務が集中する時間帯だけ遅い。顧客が困るのはその時間帯だけ。
  • 回数で測って重さを見ていない:件数ベースの達成率は良くても、業務影響の大きい少数の障害が評価に反映されない。
  • 指標が業務に紐づいていない:機器の稼働率は高くても、顧客がやりたい業務が完了できたかを測っていない。

埋めるための打ち手

  • 分布で測る:平均に加えパーセンタイル値を項目に入れる。
  • 測定点を利用者側に寄せる:顧客の操作から結果表示までを1つの取引として測る。
  • 時間帯・業務ごとに分けて測る:繁忙時間帯に別の目標値を置く。
  • 重大度で重み付け:影響の大きい障害を別項目として扱い、件数に埋もれさせない。
  • 満足度調査を併用:数値指標と体感のずれ自体を定期的に拾い、項目の見直しに使う。

ここでの教訓は「指標は現実の代理でしかない」ということです。代理がずれていれば、代理を満たしても現実は良くなりません。ギャップが見つかったときに直すのは、サービスではなく測り方のこともある——この視点が答案では効きます。

測る・報告する・直すの循環

SLAは締結して終わりではなく、周期的に回して育てるものです。

2合意した項目を測り、報告し、改善し、目標自体も見直す
① 測定合意した方法・間隔で実績を収集する
生の実績を集計期間でまとめる
② 報告サービスレベル報告書として提示し、未達は原因と対策を添える
未達・傾向悪化の要因を特定
③ 改善サービス改善計画として実施し、効果を次の測定で確認
業務の変化・実績を踏まえて
④ 見直し項目・目標値・測定方法を双方で再合意する

見直しでは目標値を上げるだけでなく下げる判断もあり得ます。過剰な目標は費用を押し上げるだけで、顧客が求めていない品質にお金を払わせることになるからです。逆に、常に余裕で達成し続けている項目は、目標が実態に対して緩すぎるか、そもそも測る意味が薄れているサインです。達成率100%が続く項目こそ疑う。これは報告書を読む側の視点として押さえておくと強い。

見抜きどころ

核は「目標値ではなく測り方を疑う」。設問が「SLAは達成しているのに苦情が出ている」「報告値と利用者の実感が合わない」と書いてきたら、狙いは測定の指標・範囲・集計方法のどれかが顧客の体感からずれている点です。頻出の3パターンを覚えておくと即断できます。①平均で測っている(→パーセンタイル値へ)、②測定点がサーバ側にある(→利用者側の端末から見た時間へ)、③期間全体で均している(→繁忙時間帯を分けて測る)。加えて階層の不整合——顧客と結んだSLAの復旧時間より、外部委託先との契約の対応時間の方が長い——も定番です。約束は、それを支える下位の取り決めより厳しくはできません

つまずきやすい

「SLAは高いほど良い」ではありません。可用性を99.5%から99.9%へ上げると、許される停止時間は月あたりおよそ3時間半から40分あまりへ縮みます。これを実現するには機器の二重化・監視の強化・待機要員の確保が要り、費用は跳ね上がる。その費用は最終的に顧客が負担します。だから目標値は顧客の業務がどこまでの停止に耐えられるかから決めるもので、技術的に可能な上限から決めるものではありません。もう1つの誤解は「未達なら罰則を課せばよい」。罰則は補償の手段であって改善の手段ではなく、罰則を恐れる提供者は達成しやすい緩い項目ばかりを提案するようになります。SLAは相手を縛る道具ではなく、何を良しとするかを揃えるための共通の物差しだと捉えるのが正解です。

この仕組みを使う設問